初夏、ドジャー・スタジアムで大リーグの試合を観戦。試合が終わった時には夜の10時を過ぎていた。ホテルに帰る交通手段はタクシーかバスだ。ここのスタジアムへは車で来るのが一般的である。試合が終わると駐車場へ向かう人々がスタジアムの出口から溢れ出す。足早に球場の出口に向かいタクシーを探したが空車はない。予約していなければ空車を見つけるのは難しいことをその場に及んで学んだ。ダウンタウンへ行く路線バスがあるのは分かっていたのでバス停へ。ホテルの近くまで行くバスはないことはホテルのコンシェルジェに訊いていた。とりあえずダウンタウンまで行こう。しかし、バスもなかなか来ない。スタジアムのある丘を歩いて降りて行く人も結構いたのでその一行について行った。途中でバスが来たら乗ろう。
LAの夜のダウンタウンは一人で歩くべき場所でないことは以前来た時に学習済みだった筈だ。たとえそれが天下のご意見番、大久保彦左衛門であっても。また、アメリカプロレス界のかつてのスーパースター、「スーパースター・ビリー・グラハム」でも身の安全は保障されない。もちろん、さすがの私もその時はこんなくだらないことを考える余裕はなくなっていた。何十分歩いたことだろう。焦りが疲れに拍車をかける。ようやくダウンタウンに行くバスが来て乗る。しばらく乗って適当なところで降りる。
建物はたくさんあるが人はほとんど歩いていない。周囲には危険な雰囲気が漂う。ホテルまでは数百メートルの距離だと見積もった。しかし地図を見ても方向が分からない。途方に暮れ始めたその時、十メートルほど離れたところで、酔った男二人が訳の分らぬ叫び声をあげながら喧嘩を始めた。ホームレスか泥酔者かドラッグ常習者、あるいはその全てか?一人が絡むともう一人が手に持った鉄パイプを振り上げて襲いかかろうとしていた。近くを見渡してもほとんど人がいないし、いても皆普通でない感じの人に見える。「恐怖」という言葉の意味を解説するのに最もわかりやすいシチュエーションの一つだ。動き出すこともできず、その場に茫然と立ちすくんでいた。つづく
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