2012/02/22

CD元年 Ⅰ

「ジャケットを じっくり眺めて 想像す」
A disk never been played

ミュージカルと言うものを観たことがなかった私は、せっかくロンドンに来たのだからと思い観に行くことにした。上演中のミュージカルはいくつかあったが、知っているのはエビータEvitaだけだったのでそれにした。知っていると言うより正確には題名を聞いたことがあるという程度で、ストーリーや背景もよく分かっていなかった。エビータは人気があり、その時もうかなりロングランしていたようだった。昼間劇場でチケットを買い(一番前の列だったけれど一万円はしなかったと思う)夜八時の開演を待つ。

さて、初めてのミュージカルの感想はというと....
開演後しばらくして眠気に誘われウトウトと。照明を落としエアコンで程よい室温に調節された劇場、意味のよく分からない英語と生のオーケストラが奏でるアンドリュー・ロイド・ウェバーの美しい音楽、長距離長時間フライトによる時差ぼけと体調不良、その体で一日ロンドンを観光して廻った疲れ。眠りを誘う要因は見事に全て揃っていた。音楽や歌声が急に大きくなった時などには、目が覚めてしばらくの間舞台をぼんやりと眺めていたが、覚えているのは、アルゼンチンの大統領ペロンの妻エヴァ(エビータ)がバルコニーで演説しているシーンなどごくわずか。私の大好きな曲「アルゼンチンよ泣かないで」Don't cry for me Argentina をちゃんと聴いていたのか、夢の中で流れていたのか、それとも残念ながら聴き逃してしまったのかすらも定かではない。(今となっては大した問題ではありません)


「エビータ」のジャケット チェ・ゲバラも出てたの?

のちに買ったアンドリュー・ロイド・ウェバーのCD
「キャッツ」「オペラ座の怪人」も彼の作品です

私が見ていようがいまいが「エビータ」は無事終演した。よく寝たはずなのに後悔の念で気分がすっきりしなかった私も人の流れに従い劇場のショップへ。せめて記念に何か買おうと店内を眺めると、この大ヒットミュージカルのLPレコード、と隣りには生まれて初めて見るCDが陳列してあった。CDはLPレコードと比べると随分小さくてオモチャみたいだった。日本に持って帰るには便利だが、何しろCDプレーヤーなど持っていなかったし、と言うかそもそも日本でそれを売っているのを見たこともなかった。それに、まだ普及するかどうかもよく分からないCDよりもLPレコードの方が無難と考えLPを購入、リュックに入らないので数日後に船便で日本に送った。

2ヶ月以上のヨーロッパ旅行から日本の自宅に帰ると「エビータ」はちゃんと届いていた。オリジナルロンドンキャストの歌と演奏の「エビータ」は長旅の疲れか、プリングルスのポテトチップ、いや手焼きの草加せんべいのようにいびつに歪んで波打っていた。今はそれを引きずってはいないが当時はかなりショックだった。CDにしておけばよかった。ジャケットから取り出すのもままならないほど歪んでいたが、それでも一縷(いちる)の望みを胸に、波打つ「エビータ」をなんとかレコードプレーヤーにセットし、それが上手く波に乗れるように慎重に針を落とした。ナガオカのダイヤモンド針は、予想通りじゃじゃ馬「エビータ」の溝をほんの一瞬足りとも捉えることができず軽々と弾き返された。何度も何度も。


まだ波打っているのがわかりますが


レコードをたくさん所有したことのある方はご存知かも知れないが、LPレコードは何枚も重ねると結構な重さになる。「エビータ」もレコードキャビネットの中で数十枚のレコードで漬ければもしかしたらいつか平らになり聴くことができるのではないか?せっかちな私にしては随分と悠長な考えを思いついたものだ。

約10年後...
気持ち波が穏やかになったか?(折しも元号は平成になったがまだまだ序の口。一応試してみたが無駄だった)

約20年後...
着実に状態はよくなって来てはいる(でも本当はもうあきらめてるので見ただけ)

そして...つい数日前に別の用事でキャビネット内をゴソゴソやっているときに偶然発見した「エビータ」は、驚く勿れ、歪みが当初より音楽劇的に矯正されジャケットからもスムーズに取り出すことができた。1.5mくらい離れれば、近視・老眼も手伝ってか真っ平らに見えなくもない。もう家にはレコードプレーヤーがないのですぐに試すことはできないが、これはひょっとすると......


いい感じになってきました



生きているうちに一度でいいから聴いてみたい。



Don't laugh at me, EVITA