2011/09/12

Bought a ticket to the West Coast 5

しばらくしてサイレンを鳴らしたパトカーが私とアウトローたちの間に割って入った。待ってました、強くて優しいアメリカのおまわりさん。心から頼りにしています。車を降りた二人の警官が、フルオープンにしたパトカーのフロントドアの陰に跪き、拳銃を構えて彼らに向かって叫んだ。「手を挙げろ!」生で見ると迫力が違うなー、などと感心する余裕ももちろんなかった。この場を離れ一早くホテルに帰りたい。そのとき頭に浮かんだ妙案は、「おまわりさんに頼めば、深夜、異国の危険な場所で道に迷い恐怖に慄いている、見るからに善良な日本人をパトカーでホテルまで送ってくれるかもしれない。」という考えであった。しかし、こんな場面でどこの馬の骨かわからない奴が下手に背後から話しかけたら、逆に、緊張して勤務中のおまわりさんの一瞬の誤った判断で撃たれてしまうかもしれない。それを恐れた私は、スティックスのミスター・ロボットの歌詞を参考にして考え付いた「ドモアリガットミスターポリスマン、マータアウヒマデー、ドモアリガットミスターポリスマン、ボクーラーハトモダチー」作戦は止めにして足早にその場を立ち去った。

もはや、自分がどこにいるのか、ホテルはどっちの方向なのか全く見当がつかない。ロサンゼルスのダウンタウンは坂道が多い。重力に逆らって歩き出せるほどの気力は残っていなかったので、下り坂をとにかく急ぎ足で歩いた。高い建物が徐々に減り、寂しい場末のナイトクラブ街のようなところへ迷い込む。後十数分で日付が変わる。タクシーを探して何度も何度も同じ場所を彷徨う。(さまよう、ってこう書くんだー。)遠くの方にタクシーの明かりが見えたが、こちらに来る手前の交差点で曲がってしまった。たまに目の前を通るタクシーは実車ばかりだ。スタジアムを出てから恐ろしく長い時間が過ぎたように感じたが、実際はせいぜい一時間半程だっただろう。憔悴しきった私の、深夜0時の流涙確率80%の両眼が、タクシーの色・形をした一台の車を捉える。有り難いことに、そして信じられないことに、それは本当のタクシー、しかも空車であった。「いくらお金を積んでもに構わない。」そんな気持になった。後部座席に乗り込み運転手さんに行き先を告げた。普通の運転手さんらしい言葉が返って来てようやく体中の力が抜けた。ホテルは拍子抜けするほど近かった。運賃は5ドル程だったと思う。

運転手さんによると、「これでもダウンタウンは10年前に比べたらずっと安全になった」らしい。次の日、ビバリーヒルズやユニバーサルスタジオ、そしてハリウッドのあるロサンゼルスに別れを告げ帰国の途に就いた。完


完成度の高い、いや完璧な曲だ

Billy Joel-Say Goodbye to Hollywood